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Think考察 / 思索

鼻が弱い俺と、鼻が強い妻の話。

気づけないことと、気づこうとしないことは、まったく別の話だ。嗅覚の話から、「気づける人にどう向き合うか」を考えた。

text by 原 奈都良
鼻が弱い俺と、鼻が強い妻の話。のカバー画像

うちの妻、鼻が利くんです。


一方の俺はまったくダメで。ガスの匂いがわからないことがある。新卒のころ、掃除用の雑巾がかなりな臭いを放っていたらしいのだが、周りが顔をしかめる理由が最後まで俺だけわからなかった。


嗅覚受容体の遺伝子は約400種類あって、感じ方の組み合わせは指紋と同じくらい人によって違うらしい。つまり、生まれつき俺の鼻が弱いのは、たぶん本当のことだ。


でも、「生まれつきだから仕方ない」で終わらせると、ただの言い訳になる。気づけないことと、気づこうとしないことは、まったく別の話だ。


自分の匂いは自分でわからない

嗅覚には「順応」という性質がある。同じ匂いの中に長くいると、脳がその匂いを情報として無視するようになる。自分の家の匂いが自分でわからないのは、これだ。


そして新卒の雑巾の話。一番長くその雑巾を使っていたのは俺だった。だから、一番気づけなかった。これは鼻の問題というより、構造の問題だった。


10年いる会社の「当たり前」は匂わない。自分の口ぐせは自分には聞こえない。だから俺は、入社して3か月くらいの人が漏らす違和感を、かなり真剣に聞くようにしている。あの時期の指摘はだいたい当たっていて、半年経つとその人も言わなくなる。慣れるとは、正しくなることじゃない。感じなくなることだ。


気づける人に、どう向き合うか

妻が「この牛乳、変な匂いする」と言ったとき、俺には二つの選択肢がある。


自分でも嗅いで「俺はわかんないけどなあ」と言ってから捨てる。か、何も言わずに捨てる。


俺は、後者でありたい。


前者は、相手の感覚を自分の精度の低い感覚で検算している。「従うけど、一応疑ってはおきましたよ」という判定だ。信頼とは、検算しないという選択の積み重ねだと思う。


ただし、丸投げとは違う。妻が匂いに気づく。だったら窓を開けるのは俺の仕事だ。気づく役と、動く役。そこで初めて対等になる。気づいてしまう人ほど仕事が増える関係が続くと、その人はいつか、気づいても言わなくなる。そうなって一番困るのは、気づけない側の俺だ。



最後に、ひとつだけ。


あなたが気づけていないものに、代わりに気づいてくれている人は、誰ですか。その人に、ちゃんとお礼を言えていますか。

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